鞍馬天狗：仮面ヒーローの原点
『月光仮面』に日本的色彩を加えたもう1つの要因は『鞍馬天狗』です。もともと西村プロデューサーは『鞍馬天狗』のような作品をつくりたいと考えていましたが、予算の都合で時代劇はできず現代劇を製作したという事情がありました。
それでは、西村氏が好きだった鞍馬天狗とはどのようなヒーローだったのでしょうか。鞍馬天狗はもともと大佛次郎の小説に登場するヒーローなのですが、現在に伝わる鞍馬天狗のイメージと人気を決定的なものにしたのは嵐寛寿郎主演の映画です。
鞍馬天狗は普段は倉田典膳と名乗っている勤王の志士ですが、いざという時には宗十郎頭巾に紋付の着流し姿になり、白馬に乗って助けを必要とする者の前に現れ、抜群の剣の腕をふるいます。
鞍馬天狗が勤王派の人々を助けるだけなら、それは対立する正義のうちの片方を助けているにすぎず、これほどまでの人気は出なかったでしょう。鞍馬天狗人気の大きな要因は鞍馬天狗と大道芸人の杉作少年との交流だと考えられます。頼れる人のいない少年を何の見返りも期待せずに助け、少年もこの慈悲深い行為に応えようとする。このような心の交流に、子供はもちろん大人も心を動かされるのでしょう。
そして、鞍馬天狗の宗十郎頭巾がターバンとサングラスと覆面に変わり、紋付の着流しが白のタイツとマントに変わり、白馬が白のオートバイに変わって、刀の代わりに拳銃を持つ月光仮面が誕生したという次第です。
