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『ウルトラQ』への道のり~『キング・コング』と『ゴジラ』を経て

ほぼ毎週怪獣が登場するという特撮テレビドラマ史上画期的な番組『ウルトラQ』誕生までの歴史を振り返ることにしたい。

特撮映画史上最初に巨大生物が登場した作品は1899年に公開されたフランスのジョルジュ・メリエス監督の"Un Bon Lit"(邦訳すれば『よいベッド』)だ。この作品ではベッドで寝ている男に近づく巨大昆虫が登場した。次に、1903年に公開された"The Voyage of the Arctic"(邦訳すれば『北極旅行』)では巨大な海蛇が登場。

このように特撮映画で当初登場した巨大生物というのは実在する生物が巨大化したものだった。

そして、1913年に公開されたD.W.グリフィス監督"The Primitive Man"(邦訳すれば『原始人』)以降、これにかつて実在していた恐竜が加わった。

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『原始人』全編(恐竜登場は17分目)

 

 

1914年に公開された『恐竜ガーティ』(原題"Gertie the Dinosaur")は恐竜が登場するが、アニメ・パートが実写パートとは完全に分かれているので、これを特撮映画と呼ぶことには異論があるかもしれない。

『恐竜ガーティ』全編(恐竜登場は6分目)

恐竜が多数登場する代表作としては1925年に公開されたコナン・ドイル原作の『ロスト・ワールド』(原題"The Lost World")が挙げられる。この映画では動く恐竜がストップ・モーション・アニメーションという手法で撮影されている。ストーリーの面では恐竜が大都市ロンドンに来て暴れており、この後製作される多くの怪獣映画で採用されるプロットが用いられている。

『ロスト・ワールド』予告編

言うまでもなく恐竜と怪獣は違う。恐竜は現在では絶滅しているがかつては地球に実在した動物だ。これに対して、怪獣は架空の生物である。

それでは、特撮映画史上初めて怪獣が登場したのはどの作品か。それは1933年に公開された『キング・コング』(原題は"King Kong")である。この映画にはキング・コングと呼ばれる体長約7メートルの巨大なゴリラが登場する。実際にはこんな大きなゴリラはいないので、キング・コングは架空の動物だ。

ただ大きいだけであれば恐竜映画よりも前から製作されていた映画に登場していた巨大生物と大して違いはないことになるが、キング・コングは違う。既にお気づきだと思うが、キング・コングには「キング・コング」という固有名がある。これより前に登場した巨大生物や恐竜には固有名がなかった(恐竜ガーティは唯一の例外)。

固有名がないということは個性がないということでもあった。これに対し、キング・コングは観客に感情移入を起こさせるほどの魅力をもったオリジナルのキャラクターだ。ニューヨークで暴れたキング・コングの悲劇的な最期を観て悲しい気持ちにならない観客は少ないだろう。

キング・コングの誕生によって怪獣映画という新しいジャンルが確立されたといえる。そして、映画『キング・コング』のフィルムを分析・研究したことで円谷英二はカメラマンから特撮監督へと変貌していった。

キング・コング』予告編

映画『キング・コング』から大きな刺激を受けて円谷英二はカメラマンから特撮監督へと変貌していく。

東宝に入社した円谷英二第二次世界大戦中その撮影技術を戦争映画で発揮した。戦後は公職追放されたので、東宝を離れ、円谷特殊技術研究所を設立する。1952年公職追放が解除されると、東宝に復帰した。

そして、1954年映画『ゴジラ』が製作されることになり、円谷英二は特撮班を指揮する。同年映画は完成、劇場公開された。

ゴジラ』予告編

 

 

映画『ゴジラ』は特撮映画史上、そして、怪獣映画史上次のような点で画期的だった。 第1に、怪獣ゴジラがオリジナルの造形であったこと。キングコングは映画史上初の怪獣ではあるが、その造形は実在するゴリラとあまり変わらない。これに対して、ゴジラは姿かたちは恐竜に似ているが2本足で直立している点が恐竜とは決定的に違う。そして、背びれの形も恐竜とは違うオリジナルの形だ。 第2に、ゴジラが実在の生物ではあり得ない攻撃ができるということ。具体的には口から放射能火炎を吐くこと。この特徴がゴジラを単なる巨大生物ではない存在にしている。 第3に、着ぐるみ(縫いぐるみ)を使っていること。ゴジラは着ぐるみの中に人間が入って演技をしている。これは予算と撮影日数に限りがあったためにやむを得ずとられた方法ではあったが、ストップモーション・アニメでは出せない独特の味を出すのに成功している。 第4に、怪獣映画が社会的なテーマを扱えるのを示したこと。ゴジラは水爆実験の結果生まれた怪獣である。このことで、この映画は核兵器の恐怖を明確に表現している。

こうして映画『ゴジラ』によって人知を超えた恐るべき存在としての怪獣というイメージが確立され、これ以降円谷英二特撮監督の下で様々な怪獣が生み出された。

そして、円谷特殊技術研究所が円谷特技プロダクション(後の円谷プロダクション)となり、円谷プロによって『ウルトラQ』が制作されるのである。