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世界の特撮ヒーロージャーナル

世界中の特撮ヒーローを紹介します。

特撮ヒーローの概念

ヒーロー

 特撮ヒーローとは特殊撮影技術を使って撮影された映像作品に登場するヒーローだ。世界初の本格的SF映画『月世界旅行』は1902年に公開されている。それなら、20世紀のかなり早い時期に特撮ヒーローは誕生したのだろうか。いや、ことはそう単純ではない。特撮技術を使ってヒーローの活躍する映画を撮影すれば、特撮ヒーローが誕生するというものではないのだ。  現在特撮ヒーローといえば、日本でいえばウルトラマン仮面ライダースーパー戦隊、アメリカでいえばスーパーマンバットマンスパイダーマンといったヒーローが思い起こされるだろう。しかし、神話や伝説のヒーローとこれら特撮ヒーローは様々な点で違いがある。特撮ヒーローが誕生するには、新しいヒーロー概念をうみだした画期的作品の登場を待たねばならなかった。その作品とは1938年にジェリー・シーゲル原作およびジョー・シャスター作画により、雑誌に発表されたコミック『スーパーマン』だ。  コミックの『スーパーマン』はスーパーヒーローという新しいヒーロー像を確立したといわれる。スーパーヒーローとは、(1)本名とは別の呼び名をもち、(2)日常とは違う姿に変身し、(3)超人的な能力を発揮して、(4)正義のために行動する者、と定義できる。スーパーマンの場合、新聞記者クラーク・ケントが、サーカスの怪力男のような服装に着替えてマントを身にまとい、超高速で空を飛び、目から熱線を放射し、吐息で物体を凍結させ、怪力を使い、正義と真実を守るため日夜戦い続ける。  

スーパーヒーローの4つの特徴のうち第4のものが欠けていれば、スーパーヒーローかどうか論じるまでもなくそもそもヒーローとしての資格がないといえる。だとすれば、スーパーヒーローがそれ以前のヒーローと違うのは第1から第3の特徴のいずれかにおいてであろう。  

まず、超人的な能力について。スーパーマンが超人的な能力をもつという設定については、1930年に出版されたフィリップ・ワイリーのSF小説『闘士』(Gladiator) が元ネタだという説がある。しかし、『闘士』の主人公ヒューゴー・ダナーは怪力その他の超人的な身体能力と頑強な肉体をもっているが、この能力を発揮して社会に貢献することはなく、ヒューゴーにとっても社会にとっても悲劇的な展開になってしまう。『スーパーマン』の原作者シーゲルはスーパーマンを多くの人に愛されるヒーローとして創造しているのだから、『スーパーマン』と『闘士』とを結びつけることには無理があると思われる。むしろ、シーゲル本人が語ったように、1933年から劇場公開された短編アニメシリーズ『ポパイ』(Popeye)から直接的な影響を受けているといえよう。ポパイは缶詰のホウレンソウを食べると超人的なパワーを発揮して悪漢ブルートをやっつけるのだ。  

それでは、スーパーマンのようなスーパーヒーローがそれ以前のヒーローと違うのは超人的な能力をもっていることだろうか。スーパーマンより古いヒーローのなかには怪力その他の驚異的な身体能力をもったヒーローがいる。たとえば、ギリシャ神話の英雄ヘーラクレースは川の流れを変え、『旧約聖書』の英雄サムソンは2本の柱をいっぺんに引っ張って建物を倒壊させ、1902年から1903年にかけて新聞に掲載された漫画『ヒューゴーハーキュリーズ』(Hugo Hercules)の主人公ヒューゴーは象を軽々と持ち上げた。1914年に出版された小説『類猿人ターザン』の主人公ターザンと1933年に雑誌に掲載された小説『ブロンズの男』の主人公ドック・サヴェジも驚異的な身体能力の持ち主だ。  

このように、スーパーマン誕生以前のヒーローも超人的な能力をもっていた。しかし、ターザンが類人猿と会話ができたという特殊な例を除き、これらのヒーローの超人的な能力というのは人間の持っている能力の延長線上にあるものだ。これに対して、スーパーマンは超高速で空を飛び、目から熱線を放射し、吐息で物体を凍結させるという、普通の人間では絶対ありえない能力をもっている点がそれ以前のヒーローとは違う。  

それでは、スーパーマンのようなスーパーヒーローがそれ以前のヒーローと違うのは(1)本名とは別の呼び名をもち、(2)日常とは違う姿に変身するところだろうか。シーゲルとシュスターが好きだった1920年公開の映画『奇傑ゾロ』(The Mark of Zorro)のゾロもドン・ディエゴ・ヴェガが普段とは違う服に着替えてマントをつけ覆面をして変身したヒーローだ。だから、この2つの特徴もスーパーヒーローとそれ以前のヒーローとを区別するものにはならない。ただし、ゾロの場合覆面を除けば日常の服装とあまり違いがないので、変身というより変装というレベルだ。これに対して、スーパーマンのコスチュームは日常生活ではだれもしないような恰好だ。この点がスーパーマンの新しいところだといえる。  

ここまでの議論をまとめると、スーパーヒーローの4つの特徴、(1)本名とは別の呼び名をもち、(2)日常とは違う姿に変身し、(3)超人的な能力を発揮して、(4)正義のために行動する、これらのうちのいくつかをもったヒーローはスーパーマンより前に存在した。ところが、4つの特徴をすべて兼ね備えたヒーローはスーパーマンより前には存在しない。ヘーラクレース、サムソン、ヒューゴーハーキュリーズ、ポパイには別名はなく変身もしない。ターザンとドック・サヴェジは変身しない。ゾロには超人的な能力がない。やはり、スーパーマンはそれ以前のヒーローとは違うスーパーヒーローだ。そして、特撮ヒーローの大半は単なるヒーローではなくスーパーヒーローだと考えられる。  

ただ、先のスーパーヒーローの定義を厳格に適用すると、今日大半の人々からスーパーヒーローや特撮ヒーローだと認められているヒーローがそうではないということになってしまう。例えば、バットマンは本名とは別の呼び名をもち、日常とは違う姿に変身し、正義のために行動するヒーローであることは明白だが、超人的な能力を発揮しているかという点で異論が出るかもしれない。しかし、バットマンの使っている装備や機械は誰もが簡単に使いこなせるというものではない。だから、筆者は「超人的な能力を発揮」というのは普通の人間には容易にはできない行動をとるというくらいの意味で使いたい。